ポスト・ワールドカップへの試み
2010.05.28 Friday
 ワールドカップ開幕へのカウントダウンが、いよいよもって目前に迫ってきた。今日でちょうどあと2週間。この原稿もウィーンからグラーツに向かう列車の中で書いている。イヴィツァ・オシムの住まいがあることでも有名なこの街では、2日後の30日に日本代表がイングランド代表との親善試合を行うことになっている。6月4日には、スイスのシオンでコートジヴォワールと対戦。そしてその10日後には、ついに本大会初戦のカメルーン戦を迎えることになる。

 とまあ、こうして書き出してみると、本当にあっという間である。もちろん、われらが代表には、できるだけ長く南アフリカに留まってほしいと願っているが、いずれにしても7月11日には祭典は閉幕し、われわれはまたしてもポスト・ワールドカップをいかに生きるかを真剣に考えなければならなくなる。ご存じのようにこの業界は、4年のサイクルで動いているのだが、4年前の06年以降、年々業界はシュリンクするばかり。代表人気、サッカー人気が下降気味にあることももちろんだが、昨今の経済事情の悪化、そしてサッカーおよびスポーツ雑誌の相次ぐ休刊といった、出版界全体の再編成も猛烈に追い打ちをかけている。

 出版界といえば、このところ書店では「特需」を見込んでワールドカップやサッカーに関する書籍が山と積まれているが、大会が終わったらあっという間に撤去されて、大半の作品は一気に忘れ去られるのは目に見えている。われわれは4年に一度だけフットボールの本が読みたいわけではない。こんなに一時期にそういった本が世に出れば、どんなに名著であっても食い合うこと必至ではないか。出版界はなぜ、4年周期で同じ過ちを繰り返すのだろう。今さらながらに拙著「フットボールの犬」を、頑張って昨年11月に上梓しておいて本当によかったと胸をなで下ろしている。

 閑話休題。いずれにせよ、われわれはポスト・ワールドカップを生き残るために知恵を絞り、新たなチャレンジを敢行しなければならない。ぼんやりと日々を送っているうちに、業界をめぐる状況はどんどん変化しており、今のままではわれわれの仕事はますます先細りするばかりである。おそらく今後も、いくつかの専門誌が休刊、または発行回数の見直しを迫られることだろう。そうなると、書き手の発表の場はますます絞られ、少ないパイを奪い合うことになる。そして原稿料は引き下げられることはあっても、決して上がることはない。書き手の多くは、インターネットや携帯サイトに活路を見出そうとするだろう。だが(長年、ネットライターをやっているからこそ断言できるのだが)、そちらの世界とて決してバラ色というわけではない。ネット界の原稿料の安さを知ったら、長年紙の世界で生きてきた書き手の誰もが目を剥くこと請け合う。

 何だか暗い話題ばかりを書き連ねてきた。だが、そんな時代だからこそ、私はポスト・ワールドカップに向けて新しいチャレンジをすることにした。有料の宇都宮徹壱公式メールマガジン、通称「徹マガ」の創刊である。有料メルマガとは、出版社やネットメディアを通さず、自身がメディアとなって読者に対して直接コンテンツを買ってもらう仕組みである。月4回の発行で月額735円、半年で4000円、1年で8000円という価格設定をした。これを「安い」と見るか「高い」と見るかは、それぞれの価値観に委ねられるが、書き手としては「適正な価格だ」と感じる人にのみ、登録していただきたいと考えている。

 ご存じのように、私自身は日本代表のコラムを執筆する一方で、辺境のフットボール事情やJFL以下のカテゴリーも追いかけている。これらマイナーなテーマは、マスを相手にするメディアには、なかなか掲載してもらえないわけだが「読んでみたい」と思う人は必ず一定数は存在する。そうした読者に向けて、一般メディアには決して載らないであろう情報を発信し、そのコンテンツに対してお金を払っていただくわけである。そして読者が増えれば増えただけ、自身のコンテンツの価値(すなわち原稿料)もアップする。仕組みとしては、実にリーズナブルではないかと思う。

 ちなみに「徹マガ」創刊を発表して(宣伝はツイッターのみ)今日で5日目だが、事務局(今はひとりしかいない)によると、現時点で予想を上回る数の登録申込みがあったそうだ。マスを相手にする商売ではないので、まずは採算ラインに達することが目標。だが、思いのほか出足は好調なので、ワールドカップ期間中にはその目標も達成できそうである。年間登録者が1000名に達したら、新たなスタッフを雇うこともできるし、2000名を突破したら「徹マガ」独自の、そして「徹マガ」登録者のためだけの海外取材も可能になるかもしれない。

 勘の鋭い方は、ここまで読めばもうお気づきだろう。そう、「徹マガ」の目的は、みみっちい金儲けでは決してない。このプロジェクトは、ポスト・ワールドカップを生き延びるための戦略であり、同時に、業界全体の生き残りを模索するための試金石なのである。もし私の試みが成功したなら、書き手は今後、それぞれが独自のメディアを持ち、それぞれの読者に向けて情報発信し、その対価を得ることができる。そうなれば、仕事の幅も格段に広がるだろうし、失業や生活不安に悩まされることなく、それぞれのフィールドで取材や執筆に専念できる。そうやって書き手が元気になれば、やがては業界全体も再び活性化していくのではないか――そう、私は密かに確信している。

 そんなわけで「徹マガ」では、このポスト・ワールドカップに向けたムーブメント(運動)として、賛同してくださる同志(すなわち登録者)を広く募集している。申込みはこちらから。
 
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