| 「誰が「彼女たち」を守るべきか? 2011.7.25 Monday |
|
7月19日、ドイツで行なわれたワールドカップで見事優勝した「なでしこジャパン」こと女子日本代表の帰国会見終了後のことである。千代田線のホームで地下鉄を待っていたら、ガラゴロとスーツケースを引きずりながら、私服姿の永里優季がこちらに歩いてくるのが見えた。つい15分くらい前まで、300人近い報道陣に囲まれていた彼女が、これからひとり、千代田線に乗って実家に帰ろうとしているのである。「お疲れ様でした!」 そう私が声をかけると、彼女は一瞬びっくりした表情を浮かべて、それからすぐにニッコリ微笑んで会釈してくれた。その一連の仕草は、TV画面で見ていたアスリートとしての表情とは大いに異なる、普通の24歳の女性の表情であった(実はこの時、「結婚おめでとうございます」という祝福の言葉が喉まで出かかったのだが、ちょっと慣れ慣れしすぎるかなと思って止めておいた)。 それにしてもこれから家路に就く間、いったいどれだけの通行人が永里の存在に気付くのだろう。あれだけ露出が増えたのだから、やはりすぐにバレるだろうか。それとも「さすがに普通に地下鉄を使うことはないだろう」と、声をかけるのを逡巡するだろうか。そんな私の想いなど知るよしもない永里は、声をかけてきた女子高生に笑顔で握手に応じると、そのまま地下鉄に乗り込んでいった。 オフ・ザ・ピッチにおける、私服姿のなでしこたちは、あまりにも無防備である。それはさながら、絶海の孤島で天敵を知らずに生きてきた小動物を想起させる。これは極めて危険な状況であると言わざるを得ない。果たして協会は、彼女たちが現在置かれた状況について、どれだけ真摯に考えているのだろう。 彼女たちの多くは、これまでまったくといってよいほどメディアから見向きもされてこなかった(一般的なサッカーファンでも、熊谷紗希や川澄奈穂美の名前を大会前から知っていた人は少なかったと思う)。それが今回の優勝で、状況は一変してしまったのである。彼女たちは、そうした世の変化を自覚しないままドイツから帰国し、その後、大いに当惑することになる。熊谷が被害を被ったツイッター騒動や、丸山桂里奈へのスト―キング未遂騒動も、そうした意識と現状とのギャップの中で起こったと見るべきだろう。 こうした状況を鑑みて、彼女たちを守るべきはやはり協会以外には考えられない。もちろん代表チームが解散している現状では、本来ならばクラブがその責を担うべきであろう。しかしながら女子サッカーのクラブは、そのほとんどが専任の広報スタッフを用意できない状況だし、そもそもそんな余裕さえないのが現状である。そうしたクラブについては、臨時の広報スタッフを協会から派遣するのも、ひとつの有効な方策であると考える。 今後のメディア露出についても、協会は「とにかく女子サッカーの認知度を上げたい」という姿勢をいったん改め、きちんと番組内容や選手の負荷を吟味した上で可否を判断すべきだ。また代表の合宿時には、選手へのメディアトレーニングも、この機会に義務付けるべきだと思う。 いずれにせよ、これまで協会は女子に関して、散々ほったらかしにしてきたのである。熊谷に厳重注意する前に、いくらでもやるべきことはあったはずだ。9月からは女子の五輪予選がスタートする。ただでさえ日程的に苦しいのに、オフ・ザ・ピッチで選手が余計な負担からコンディションを崩したら目も当てられない。今こそ協会は、激変した環境から彼女たちを守ってあげるべきだ。取り返しがつかなくなる前に。 <徹マガ通巻61号より転載> |
|